JASCとの出会いが人生を変えた
金野 代表理事: 佐藤さん、まずは日米学生会議(JASC)に参加された当時のことからお聞かせいただけますか?
佐藤典子さん:はい。1980年にJASCに参加しました。300人ほどの応募者の中から選ばれて、関西からの参加者の一人でした。東京での合宿では、東京の学生たちの優秀さに圧倒されて、劣等感を感じたのを覚えています。
金野:当時は今よりも参加人数が多かったですよね。4週間のプログラムで、ロサンゼルス、ワシントンD.C.、ニューヨーク、エール大学などを巡りました。
佐藤: そうですね。夜に芝生の上で語り合った時間が忘れられません。JASCの経験があったからこそ、国際的な舞台で「自分も何かできるかもしれない」という自信につながりました。ホームステイも2回ありましたね。
金野: 学生が宿泊していた宿舎の会議室に、ライシャワー元大使がいらっしゃいました。
佐藤:はい、あの時は本当に感動しました。思い切って駆け寄って、ツーショットの写真をお願いしたのを覚えています。
よくlife changing experienceと言いますがその通りでした。日本ではある程度「意識高い系」だと思って行ったのですが、アメリカ人の学生の方が社会的なこと、政治的なことに関心があり自分の意見を持っているというのが刺激になりました。

佐藤さんが働いていたころの日米の校舎
IECでのキャリアと成長
金野:大学卒業後はIECに入社されたんですよね?
佐藤:はい。就職活動をする時間もないほどJASCの実行委員として忙しくしていたのですが、たまたま東京で伊部さんと話す機会があり、「日米学生会議のようなことがしたい」と話したら、翌日面接という流れで入社が決まりました。
金野:当時のIECは活気がありましたよね。専門課程や同時通訳コースもあり、学生であふれていました。
佐藤:はい。私は入社して文化事業部にいました。毎月著名人を招いたフォーラムを開催したり、スピーチコンテストを企画したりしていました。海外留学も実現でき、IECから奨学金を得てアメリカの大学院に進学しました。最初の1年は奨学金で、2年目は日本語のティーチングアシスタントとして授業料免除と生活費を得ながら学びました。

金野:当時はまだ若手女性が海外に出るのは珍しかった時代ですよね。
佐藤:そうですね。だからこそ「なぜ中年男性ばかりが行くのか」と主張し続けました。今で言うダイバーシティの先駆けだったかもしれません。
外資系企業での挑戦と独立
金野:その後、HSBCに転職されたんですね。
佐藤:はい。IECを離れて就職活動をしていたときにHSBCに採用されました。人事部の副部長が岡山出身で、趣味も大学も共通点が多く、運命的な出会いでした。最初の面接がいきなりCEOという順番も印象的でした。
金野:HSBCはアジア発祥ですが、イギリス資本の銀行ですね。
佐藤:はい。HSBCはイギリス人が上位にいるような文化があった時期もあって。しかし、Right time, right place──時代の波に乗って成長した企業でもあります。いろいろ勉強させていただき、ネットワークも広がりました。
金野:10年間勤めた後、独立されたんですね。
佐藤:はい。コーチングの国際資格(国際コーチング連盟認定)を取得し、外資系企業の幹部を対象にコーチングを行っています。アメリカと日本を行き来しながら、シティバンクや会計ファームなどで研修を担当してきました。最初はネットワークを活かして仕事を得ていましたが、徐々に紹介やリピートも増えていきました。
また、バイリンガルでコーチングができるという需要もありました。外資のエグゼクティブには日本語の先生は別についています。しかし、接し方や表現の仕方について迷うところもあったみたいで、そういうことへのアドバイスも行いました。

金野:どんなにいいプレーヤーでもコーチが良くなければという考え方は海外に行くほどありますね。
佐藤:そうですね。トップになるほど、相談できる人がいないから寂しいですよね。きっと金野さんもそうじゃないかと思うんですけど(笑)。いろんな局面で、自分で決定しないといけないことってありますね。
答えはクライアントが持ってるので、私は承認をして傾聴して質問して。時折哲学的な質問をしたりすることもあります。
評議員としての視点とIECへの提言
金野:今年からIECの評議員としてもご活躍いただいていますが、どのような視点で関わっていきたいとお考えですか?
佐藤:恩返しの気持ちで関わらせていただいています。人事経験を活かして運営の改善に貢献できればと思っています。例えば、ジョブディスクリプションを明確にすることで、スタッフのモチベーション向上にもつながりますしね。
金野:様々な経験をして、またIECに戻ってきて下さる。大変うれしいことです。

金野:数年前の「外国人による日本語弁論大会」には学生を連れてきてくださって。来年2026年の外国人による日本語弁論大会はご出身の岡山県開催ですね。開催地誘致にもご尽力いただきました。
佐藤:規模が大きくはない街でも開催できる!というところをお見せできたらと思います。とっても盛り上がりますよ。
金野:今後はコーチングやコミュニケーションの観点から、カリキュラムの改善にもご協力いただければと思っています。
佐藤:IECだからこそできる付加価値のある取り組みはたくさんあると思います。よいご提案ができればと思っております。
若い世代へのメッセージ
金野:最後に、これから国際的に活躍したいと考えている若い世代にメッセージをお願いします。

佐藤:言葉はツールです。英語やスペイン語を話せても、それだけでは足りません。経済や法律などの中身を学ぶことが大切です。そして、出会いを大切にして、自分の可能性を信じてほしいです。私自身、one and only であるためにはどうしたらいいかなと思い、50代後半で博士課程に進みました。
また、出会いは化学反応が起きます。対面で実際に会うことでわかることがあります。今後、日米会話学院に学びに来てくださる方には、そういうものを体験して欲しいですね。
金野:佐藤さんのように、常に学び続ける姿勢が大切ですね。今日は貴重なお話をありがとうございました。
佐藤:こちらこそ、ありがとうございました。
